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【無人島277日目】オリジナルサウンドトラック 『はじまりのうた』

投稿日:2015年3月9日 更新日:

277日目。いい歳をして行儀が悪いとは自分でも思うのですが、ボクはヘッドフォンをつけて音楽を聴きながら街を歩くのが好きです。いつもと同じ通勤路や見慣れた近所の風景が、音楽というフィルターを一枚被せることで、まるで初めて訪れた街を歩いているかのような気持ちになったりするからです。そういえば、稀代の天才・宇多田ヒカルちゃんの名曲の中にも「ヘッドフォンをして人混みの中に隠れると、もう自分は消えてしまったんじゃないかと思うの」という一節がありましたが、確かに音楽を通して街を眺めていると、まるで映画のスクリーンを見ているようで、自分はそこにいないような錯覚に陥ったりもします。音楽にはそういう、街をキラキラさせたり、遠い国の風を感じたり、自分を透明人間にしてくれたりする、不思議な魔法の力があるのだと思うのです。

2007年に公開され、15万ドルという低予算ながら世界的な大ヒットとなったアイルランド映画『ONCE ダブリンの街角で』のジョン・カーニー監督が、6年ぶりに制作した新作映画『はじまりのうた (Begin Again)』を観てきました。

偶然知り合った男女が音楽で結びつき、お金のない中どうにかこうにか1枚のアルバムを作っていくという基本ストーリーは前作と同じなのですが、アイルランドのブルーカラーの苦悩や移民問題を背景にした『ONCE』に比べ、ニューヨークを舞台に、キーラ・ナイトレイやアダム・レヴィーン(Maroon 5)などの人気者をキャスティングした今作は、音楽もポップで明るく、後味も爽やかなキュートな作品。格別に「上手い」というワケではないのですが、役柄にマッチした孤独と優しさを湛えたキーラ・ナイトレイの歌声が絶品です。

今作の音楽を担当したのは、元「ニュー・ラディカルズ」のグレッグ・アレキサンダー(Gregg Alexander)。キーラ・ナイトレイが歌った主題歌『Lost Stars』で、本年度のアカデミー歌曲賞にノミネートされました。「ニュー・ラディカルズ」は1999年に解散しましたが、このヒットに合わせて久しぶりにニュー・ラディカルズ名義でこんなMVも公開されました。

前作『ONCE』で主役と音楽を担当したグレン・ハンサード(Glen Hansard)も、この映画のために『Coming Up Roses』という楽曲を提供しています。とても良いシーンで使われていて、今回のサントラの中でボク的にはこの曲が一番好きです。

映画の中盤で、マーク・ラファロ演ずる落ちぶれたプロデューサーと、キーラ・ナイトレイ演ずるまだ何者でもないミュージシャンが、スティービー・ワンダーやフランク・シナトラの名曲をヘッドフォンで聴きながら、夜のニューヨークを歩き回るシーンがあるのですが、「音楽を聴きながら街を歩くと、平凡な日常が急に美しく沸き立つ真珠のように見える。歳を取るとだんだんその真珠が見えなくなるんだけど、今日はキレイに見える」というようなマーク・ラファロの台詞があって、なんだかとてもグッと来たのです。

平凡な毎日も、見飽きた日常も、いつかそれを手放す時には、何物にも代えがたい、キラキラとした真珠のように見えるのでしょう。ヘッドフォンで音楽を聴きながら街を歩く時のあの、すべてがキラキラとした感覚は、いつか来るその日のための、大事な追体験なのかも知れません。

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