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【無人島248日目】ビートたけし 『嘲笑』

投稿日:2013年2月3日 更新日:

248日目。先日友人に誘われて、生まれて初めて「茶会」というものに参加してきました。ボクがお邪魔したのは東京・神楽坂に教室を構える「芳心会」の初釜茶会。門構えの静謐さに、酔った勢いで「イクイクー!」なんて言ってしまったことを強烈に猛省しつつ、おずおずと席入り。暑くもないのになんで扇子を持つの? このチリ紙はお腹が痛くなった時のため? などなど、右も左も分からないことだらけのウレシハズカシ初体験でしたが、まるで見知らぬ時代へタイムスリップしたかのような、SF的小旅行気分を堪能させていただきました。

数年前に山本兼一著の直木賞受賞作『利休にたずねよ』という小説を拝読いたしましたが、今回「茶会」に参加させていただき、なるほどあの小説の舞台はこんな風景だったのかと、膝を叩く想いでした。驚くほど小さなにじり口。三畳のみの小間。コトコトと茶釜が沸く音。濃茶を立てる魔法のような手つき。古い茶器。怪しい色合いの香合。障子から透ける外光。掛け軸。一輪挿し。衣擦れの音。

俯瞰と仰視。静と動。ミクロとマクロ。作法でフィジカルを制御すればするほど、解き放たれてゆくメンタルなもの。千利休が抜群のデザインセンスと、卓越したプロデュース力で完成させた「侘び茶」の世界は、決して静的で色褪せた渋色ではなく、シンプルかつ動きのあるビビッドな色合いの小宇宙なのでした。

星を見るのが好きだ
夜空を見て考えるのが
なにより楽しい

百年前のひと 
千年前のひと 
一万年前のひと 
百万年前のひと 

いろんなひとが見た星と
僕らがいま見る星と
ほとんど変わりはない
それがうれしい

茶会の間、正座で痺れきった脳ミソの中で延々とリフレインを始めたのは、ビートたけしが1993年にリリースした『嘲笑』。たけしのエッセー内の一節に感銘を受けた玉置浩二が、自ら作曲を申し出てこの歌が完成したと言われています。作詞家としては寡作ですが、『浅草キッド』と並び、北野武という奇才の非凡さを認識する名曲です。

前述の『利休にたずねよ』によれば、秀吉の時代の「茶事」とは、男たちの社交場、現代の高級クラブ的なものだったようです。艶やかに着飾り、極上のお茶を飲みながら、亭主の持つ一級品を愛でる。そこには、愛憎や嫉妬、ゴシップや駆け引きなどが渦巻きながら、それをおくびにも出さず笑顔でかわす、したたかなゲームが繰り広げられていたことでしょう。そして夜咄なら、障子一枚隔てた庭に出れば、漆黒の空に星々が輝いていたはず。それはうれしいほど、いまと何も変わっていなかったのかも知れません。

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