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【無人島233日目】THE HIGH-LOWS 『日曜日よりの使者』

投稿日:2011年9月15日 更新日:

233日目。先週末『未来を生きる君たちへ』という映画を観てきました。デンマークとスウェーデンの合作で、本年度のアカデミー賞とゴールデン・グローブ賞の最優秀外国語映画賞をダブル受賞した作品です。なんだかやたら説教臭そうな邦題ですが、デンマーク語のオリジナルタイトルを直訳すると『復讐』。「やられたら、やりかえすべきか。それともグッと耐えて相手を赦すべきか」という、人間の根底的な問題をテーマにした映画で、個人的にえらく面白かったので、今日はちょっとこの映画の話をします。

舞台になるのは、デンマークとアフリカ。「国境なき医師団」として難民キャンプに通うスウェーデン人医師が、アフリカの紛争地で目の当たりにする武力勢力の暴力と、彼の息子がデンマークの学校で受けているイジメ。親子はそれぞれに不条理な暴力に直面しながら、父親は非暴力で対抗しようとし、息子は報復を企てます。

子供のいる前で見知らぬ男に殴られた父親は「なんでやり返さないの?」と訝しがる子供たちに、「殴ったアイツはバカだ。でも殴り返したらお父さんもバカになるんだよ」と諭します。でも子供たちにはまったく理解されないし、さらに悪い結末への布石になってしまう。逆に、学校で受けていたイジメは、暴力でやり返すことで問題は解決する。じゃあ暴力で返すのが正解かというと、やはりそれも違う。

あくまで非暴力を主張する父親の姿は、毅然としながらも哀れで滑稽だし、友達にそそのかされ、仕返しを企てる息子はどこまでも愚かです。そういう矛盾と逡巡を繰り返しながら、この映画はあるひとつの「希望」へと導いていきます。

ボクは短絡的なバカなので、やられたらやり返したいと思うほうですが、同じくらい弱気で意気地ナシなので、実際には何もできず「これが大人の対応」などと周りにうそぶくタイプです。サイテー。

でもこの「復讐と赦し」をテーマにした映画をみて思ったのは、この答えのない深淵な問題に直面したとき、ボクたちが唯一手にすべき武器は「ユーモア」かもしれないということ。煮えたぎる憎しみや、堪え難い忍耐を癒すのは、他愛のない冗談や笑い以外はないのです。

たとえば世界中がどしゃ降りの雨だろうと
ゲラゲラ笑える日曜日よりの使者

きのうの夜に飲んだグラスに飛び込んで
浮き輪を浮かべた日曜日よりの使者

適当な嘘をついてその場を切り抜けて
誰一人傷つけない日曜日よりの使者

流れ星がたどり着いたのは
悲しみが沈む西の空

そして東から昇ってくるものを
迎えに行くんだろ日曜日よりの使者

このままどこか遠く連れてってくれないか
君は君こそは日曜日よりの使者

たとえばこの街が僕を欲しがっても
今すぐ出かけよう日曜日よりの使者

流れ星がたどり着いたのは
悲しみが沈む西の空

そして東から昇ってくるものを
迎えに行くんだろ日曜日よりの使者

唐突ですが、そんなことを考えているうちに頭の中で浮かんだフレーズは、ザ・ハイロウズの『日曜日よりの使者』。元々は彼らのファースト・アルバムに収録されている曲ですが、04年にシングルカットされ有名になりました。作詞は甲本ヒロト。

通説ですが、この歌はヒロトが自殺を考えるほど落ち込んでいた頃、偶然つけた日曜のテレビ番組に「ダウンタウン」が出ていて、あまりの面白さに大笑いし、自殺を思いとどまったことが経緯で作られた曲だと言われています。つまり、日曜日の使者とは「ダウンタウン」であり、ひいては「笑い」のことなのだとか。

適当な嘘をついてその場を切り抜けて 誰一人傷つけない日曜日よりの使者

人は、怒らせるよりも、泣かせるよりも、笑わせるのが一番難しいといいます。相手から受けた暴力に暴力で返すよりも、相手に両頬を打たせてから説得を試みるよりも、もしかしたら相手を笑わせることができれば、それが一番の「勝ち」なのかも知れません。映画の最後に見える明るい光が、どこかこの歌の明るさにも似ていて、そんなことを考えたのです。

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