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【無人島219日目】とんちピクルス 『とんちピクルス』

投稿日:2011年2月1日 更新日:

219日目。「初体験」つうのはいくつになってもドキドキするもので、年を重ねたからと言って、何ごとにも動じなくなるというのは、少なくともボクにはないようです。初めて行く場所、初めて会う人、初めてやってみること。過去の経験から予測程度はつくようになりましたが、自分のチンクリな予測など遥かに上回るサプライズがあるほうが面白いし、そのドキドキはきっと、なくしてはいけない種類の感情ではないかと思うのです。

閑話休題。先週仕事中に友人からメールが届き、まったく聞き覚えのないミュージシャンのライブに誘われました。バタバタしていたのであまりメールの内容も確認せず、でも音楽センス的にボクが絶大な信頼を寄せている友人からの誘いだったので、四の五の言わずにさっさと仕事を切り上げて、そそくさと会場へ向かったのです。

携帯で場所検索しつつちょっと遅れて到着したのは、20人も入ればいっぱいになってしまうようなカフェ。中に入ると演奏がもう始まっていて、無精髭にキャップを被った四十路過ぎとおぼしきおっちゃんが、マイクも持たずにウクレレの弾き語りでこんな歌を歌っていました。

腹が減って死にそうな気持ちで
お魚くわえて逃げた

裸足で飛び出してきた女が
僕をドラ猫と呼んだ

コマ飛びの記憶の向こう 
ブレていくあの娘の顔

鼻水と涙でにじんだけど
手紙はまだ持ってる

貨物列車の中夢見たのは
こんな暮らしじゃなかった

照らすライトを背に走りながら
また夢の中で泣いた

マイクを通さない生声とウクレレ一本という究極にシンプルなスタイル。決して歌が抜群に上手いワケでも、ウクレレのプレイが卓越しているワケでもないのですが、「琴線に触れる」というのはこういうことなのかと腑に落ちるような演奏でした。明らかに呑みながら演っている赤ら顔で、大きな肩を落としながら、「こんなはずじゃなかった」とつぶやくように歌うその中年男は、「悲哀」でも「滑稽」でもないその中間くらいにある「諦め」のようなものを、演奏だけではなく全身で表現しているのでした。

そのミュージシャンの名前は「とんちピクルス」。福岡を根城に活動する松浦浩司氏のひとりユニットです。前述の佳曲『夢の中でないた』のようなセンチメンタルなウクレレ弾き語りや、かと思えば自作のバックトラックに乗せたスチャダラを彷彿とさせるラップ曲などで、福岡のインディーズでは人気の高いアーティストなのだそう。08年には「バンバンバザール」や「金子マリ」を擁するHOME WORK RECORDSよりアルバム『とんちピクルス』をリリース。昨年には「スカンク兄弟」のアルバムにも客演として参加しております。

ライブでは突然「ウクレレ犬のウクちゃん」と呼ばれるぬいぐるみと不自然なトークを展開したり、チケットは払いたい分だけ払う「投げ銭」制を導入したりと、かなり奔放なスタイルでしたが、あらゆる意味でボクの想像を遥かに上回るサプライズでした。なんていうんだろう、誰でもできそうだけど実は誰にも真似できない手品を見ているような気分っていうと近いでしょうか。たぶんこれから何度もライブに足を運ぶことになりそうな予感がするミュージシャンの、今回がボクの「初体験」でした。

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