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【無人島185日目】ゴダイゴ “Thank You, Baby”

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西遊記

西遊記

  • アーティスト: GODIEGO,奈良橋陽子,ミッキー吉野
  • 出版社/メーカー: コロムビアミュージックエンタテインメント
  • 発売日: 1993/10/21
  • メディア: CD

185日目。季刊誌として年4回発行される、新潮社の文芸誌『yom yom(ヨムヨム)』。ボクは毎号必ず購読しておるのですが、先月発行された最新刊の中に素晴らしい短編が入っておりました。『鴨川ホルモー』『鹿男あをによし』などで人気の若手作家・万城目学(まきめまなぶ)氏の『悟浄出立』という作品。『西遊記』の登場人物である河童キャラ「沙悟浄」の視点で描かれた、同志であり兄弟分であるデブキャラ「猪八戒」の物語です。常に主役の「孫悟空」の影で、物語のサブキャラとして甘んじているこの二人。お調子者でいい加減な八戒が、実はかつて「天蓬元帥」と呼ばれた天界のヒーローであったことを小耳にはさんだ悟浄が、その真偽を八戒に問いただします。八戒の過去と旅することの意味。それらはただのサブキャラ(傍観者)に甘んじていた悟浄に、ある変化を与えます。そして……。あとは読んでのお楽しみなのですが、『西遊記』という誰もが知っている素材があったからにせよ、たった25ページ程度の短編なのに、驚くほど深みと広がりのある筆致で、この一編だけでも今号のヨムヨムは買う価値があったぜ!と思わされる逸品でした。

ところで『西遊記』と言えば、ボクが真っ先に思い浮かべるのは、78年にテレビドラマ化された、堺正章主演の『西遊記』。当時ボクは小学校3年生だったのですが、ものスゴくハマってしまい、日曜の夜8時には万難を排して、居間のテレビ前にひっついていた記憶があります。翌年のパート2で、猪八戒役が西田敏行から左とん平に変わった時には、子供ながらに「名前がとん平だからって!」と理不尽(?)な交代劇に地団駄を踏んだものです。
音楽担当は当時まだ無名に近かった「ゴダイゴ」。彼らのブレイクは、この『西遊記』の主題歌となった『ガンダーラ』『Monkey Magic』の大ヒットが皮切りで、この後『ビューティフル・ネーム』や『銀河鉄道999』で、その人気を確立していきます。ブレイク前には主にCMや映画音楽を多く手がけていたゴダイゴは、もちろんこのドラマ『西遊記』のサントラも担当し、78年10月にアルバム『西遊記』をリリース。大ファンを自認していた小学生のボクは、なけなしの貯金をはたいて、このアルバムを買ったのでした。
レコードを買った帰り道、「♪そこーにいーけばーどーんな夢もー叶うとーゆうよー」と口ずさみながら、ホクホク顔で自宅に戻り、古めかしいステレオのターンテーブルに乗せたところ、流れてくるのはなぜか全部英語詞。『Monkey Magic』が英語なのは承知していたのですが、『ガンダーラ』までもがなぜか英語。番組で流れているマチャアキの挿入歌なども収録されておらず、まったくもって純粋なサントラではなかったのです。ショックを受けたボクは涙目になりながら、本気でレコード屋に返品しにいこうかと悩みました。
そんなボクを引き止めたのが、A面の最後に収録されていた『Thank You, Baby』という楽曲。これは番組内でしんみりした場面によく流れる曲で、このアルバムの中で唯一のバラード。2分にも満たない小品ですが、長い旅に出た人の孤独と強い意志のようなものが見事に表現されていて、つうか小学生のボクはそんな小難しいことは考えてませんでしたが、純粋にこの曲が大好きで、何度も何度も繰り返し聴きました。「この曲が入ってただけでいいや」。そう思い、結局返品はしませんでした。そして何度も繰り返し聴くうちに、9歳のボクの頭でこの歌は「生涯忘れない曲」としてインプットされたのです。

太陽の国にたどり着くまで
ボクはただ歩き続けます
その日まで心からの休息はありません
孤独なる憧れなのです
道のりは長く
費やす日々は果てないです
休息はほんのわずかしかなく
キミの消えない笑顔だけが
ボクにとっての安らぎとなぐさめです
思い出をもらいました
ありがとう
まだ愛しています
ありがとう
キミがボクに明日をくれました
道の行く先が
今は明るく見えるのです
(超訳:ハチ)
前述の『悟浄出立』を読んでいるとき、ふいにこの曲が頭の中で回り出し、どうしても聴きたくなったので、30年ぶりにこのアルバムを再購入してきました。今聴くとサウンドトラックという枠を超えた、実にクオリティの高いオリジナル・アルバムで、アレンジもまったく古さを感じさせない耐久性があります。そしてやはりこの『Thank You, Baby』は今聴いても名曲で、なんというか自分の中の一部が、この歌でできていることを認識しました。もしもいつかどこかで、自分の人生のテーマ曲を選ばなきゃならない時がきたら、ボクはこの曲を選択肢として必ず入れるだろうなあと思うのです。それっていつどこでやねんって話ですが、いつかは分かりませんが、そこに行けばどんな夢も叶うというのです。

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