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【無人島177日目】夏木マリ “パロール”

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パロール

パロール

  • アーティスト: 小西康陽,岩谷時子,あいさとう,寺山修司,ジャック・プレヴェール
  • 出版社/メーカー: READYMADE INTERNATIONAL
  • 発売日: 2002/09/28
  • メディア: CD

177日目。ここんとこ続けて「二階堂和美LOVE!」的なレビューを書いたところ、このブログの、つうかワシの女性ファンから「和美のどこがいいの!?」という嫉妬やら、「私もカズミっていいます!」という売り込みメールまで、ひっきりなしに届いております。はい、ゴメンなさい。ウソです。でも、メールは出さないまでもヤキモキしているファンは多いと思うので、ひとつ言っておくと、ボクは和美のパフォーマンスに惚れたのであって、ルックス的に超ド真ん中ってワケじゃないんです。はあぁ?つうか、そんなこと誰も興味ねえし!どっちかっつったら二階堂和美さんに失礼だろ!って話ですが、まあいいじゃないですか。今日はボクの女性ファンの方々に誤解のないように、ルックス的にボクの超ド真ん中をご紹介したいと思います。うわああぁぁぁ。お願い、ページ閉じないでぇぇぇ。

夏木マリ。言わずと知れた大女優。御年56歳になられましたが、相変わらずオットコ前な美貌は健在でございます。小柄ながら背筋の伸びた凛としたフォルム。射るような視線と、余裕の笑みを浮かべた唇。強さと優しさと可愛らしさと格好良さのすべてを持ちつつ、そのすべてが完璧なバランスを取っている希有な女性です。冗談ではなく、ルックス的にボクの理想の女性はこの人です。
でも、ボクが明らかにこの人に恋に堕ちたのは、02年にリリースされたアルバム『パロール』を聴いた時でしょうか。このアルバムは元ピチカート・ファイブの小西康陽が、ピチカート・ファイブを解散した翌年にプロデュースし、自分のレーベル『レディメイド』から出した作品。小西プロデュースとしては、95年の『9月のマリー』から数えて4枚目のアルバムとなります。
ジャズでありシャンソンでありながら、猛烈なロックンロールを感じさせる格好良さで、小西氏がピチカートで表現できなかった「生身の女」の色気が匂い立つようなアルバムです。ボクは特に、7分間何の伴奏もBGMもない中、淡々と自分の死について語る女の歌『三時間四十二分』で、完璧にノックアウトされました。ちょっと長いのですが、歌詞カードにさえ載っていないその朗読詩をディクテーションしてみたので、夏木マリの声を想像して読んでみてください。
あなたは『ベン・ハー』という映画を、
観たことがあるかしら?
長い映画よ。
とても長い映画。
ひとりの男の生涯に関する映画よ。
ローマ帝国、エルサレム、マケドニア軍……。
そう。
様々なことが起こるわ。
人が経験しうる、
ありとあらゆることが。
わたし、
一度死んだことがあるの。
若かった頃。
ずいぶんと昔よ。
アイスランドという国、
ご存知?
北欧ね。
行ったことある?
ないわよね。
レイキャビック、グトルフォス、ケフラヴィーク、
ゲイシル、ブルーラグーン……。
退屈な国よ。
オーロラが見えるそうだけど、
私が住んでいた町では、
見たことがないわ。
つまり「寒いこと」が、
観光になるような国ね。
アイスランドの男たちはとても勇敢で、
誇り高くユーモアがあって喧嘩早かった。
漁が終わると男たちは、
ストーブがあるパブに集まってきて、
水代わりにウォッカを呑みながら、
わたしの歌を聴いていた。
時にはわたしを口説きながら。
時には涙を流しながら。
恋?
どうかしら。
男はあれをそう呼んでいたわ。
太くて傷だらけの腕に、
漁の神様の入れ墨を入れているくせに、
自分の影には怯えて、
灯りの下には立てなかったような男。
あの日、
磨りガラスに貼り付いた水滴みたいに、
ボロボロ泣いていたわ。
その日も雪が降っていたわ。
海にも雪が降っていた。
よく「しんしん」と言うでしょ?
雪が降る音。
あれは本当ね。
本当に「しんしん」と雪が降っていた。
小さな漁船が目に止まったの。
船の舳先からのびたロープに、
油の染みたハンカチが、
ひっかけられて揺れていた。
わたしそれを取ろうとしたの。
どうしてかって?
さあ……。
その時ハンカチが、
必要だったからじゃないかしら。
そうしたら落ちたのよ、
海に。
別に事故というワケでもないわ。
ただそこに落ちていたんでしょうね。
わたしの人生みたいなモノが。
そこが砂漠でも、
そう大した違いはなかったと思うわ。
水道の水も凍るような場所よ。
海の水は冷たかった。
わたしは莫迦なアヒルのように、
足をバタバタさせた。
だけどどこにも足の付く場所なんてなかった。
なにもなかったのよ。
だって海なんですからね。
二つの肺の中が、
塩水でいっぱいになった。
体中の血が、
フローズン・ダイキリの赤いのみたいに、
凍っていくのがわかったわ。
蜜蜂のザラザラした舌で、
舐められているように、
体中が痺れて心臓の音が、
小さくなっていくのがわかったわ。
わたしは海を見ていた。
いいえ。
海に見られていたのね。
死んでいくわたしを、
海が見ていたの。
きっとあの世から見れば、
わたしも海の続きね。
ああ、
これから夜が始まるのね。
そう思ったわ。
そして死んだの。
三時間四十二分。
三時間四十二分、
心臓が止まっていたらしいわ。
病院で息を吹き返すまでの間、
わたしの心臓は止まっていたの。
わたしはそんなに長い長い間、
死んでいたの。
そう。
あの映画の上映時間と同じだけ。
「ベン・ハー」の上映時間と同じだけ、
わたしは死んでいたの。
今でも時々、
ビデオで「ベン・ハー」を観るのよ。
別に何も思わないわ。
ただわたしを拾い上げてくれた男。
彼がいつも自慢げに被っていた、
父親の帽子が流されてしまって、
それについて申し訳なく思いながら。
体はどこも悪くない。
ちゃんと生きてるわよ。
ただあれ以来変わったことが、
ひとつだけあるわね。
何を食べても味がしないの。
甘いも辛いもなにも。
まったくなにも。
口紅を塗っても、
それが誰か他の人の顔のような気がするわ。
今も海に行って波の音を聞くと、
とても不思議な気持ちになる。
あの時も波の音が聞こえていたし。
目は閉じれば見ずにすむけれど、
耳は閉じることができないからね。
そうね。
あなたのような人からすると、
「枯れている」っていうのかしら。
そうね。
でもわたし、
ずっとここに来たかったのよ。
超かっけー! 特にボクは「ただそこに落ちていたんでしょうね、わたしの人生みたいなモノが」ってとこで失禁しそうになりました。幽体離脱並みの客観視! どこまで冷静なんだ、マリ!(←呼び捨て)
この詩はかつては『東京ラブストーリー』、最近だと『太陽と海の教室』や『西遊記』などのドラマを手がけた脚本家・坂元裕二氏の、このアルバムのための書き下ろし。夏木マリという女性のもつ、強さと冷たさと、なにかしらの欠如感、みたいなものを実に上手に描き出していると思います。
この他にも「莫迦な男」を冷徹にこき下ろしつつ愛を表現する『二の腕』や、フォーク歌手・高田渡のカバー曲『私は私よ』など、夏木マリ以外の歌手には歌えないだろうと思われる極上の大人ソングが詰まった名盤です。和美も本気でLOVEですが、もし和美とデートしている時にマリが現れて、人差し指を上に向けてちょいちょいってされたら、ボクは夢遊病者のようについていってしまうことでしょう。ごみんね、和美。そしてごみんね、ボクの女性ファン。………。はい、ゴメンなさい!冗談っす!うわああぁぁぁ。お願い、炎上させないでぇぇぇ。

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