- アーティスト: 長渕剛,瀬尾一三,矢島賢
- 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
- 発売日: 1990/08/25
- メディア: CD
162日目。北京オリンピックでございます。まだ前半戦ではございますが、今年は、水泳の北島、柔道の内柴、谷本と、オリンピック２連覇を達成した選手たちが目立っております。過去の栄光に甘んじず、４年という歳月をしっかり見据えて、コツコツと努力し、再び世界の頂点に立つ。素晴らしいです。ワシにはできん。ワシが北島だったら、この４年間ずっと金メダルを首からぶら下げて、毎晩呑み屋で自慢話を垂れつつ、「ホラ、これ金メダル。触りたい？ １回500円でいいよ？」とか言いながら、なにもせずグダグダに過ごしてしまったことでしょう。同じ男として、つうか同じ人間として、この差は一体なんなんでしょう。
ところで、二連覇を達成した柔道の内柴正人選手の好きな歌は、湘南乃風の『応援歌』だそうです。あのダミ声の「スタンダッ！」っつうリフレインを何度も噛み締めながら、内柴選手はこの４年間練習に励んできたんでしょう。なんか絵が浮かびますな。かっこいいし、らしいです。
ほんじゃボクにとっての「応援歌」とはなんだろ？と考えると……。野狐禅の『拝啓、絶望殿』？ マイナー過ぎ。中島みゆきの『重き荷を負いて』？ 内向的過ぎ。eastern youthの『沸点36℃』？ 後ろ向き過ぎ。うーん、どれもこれも金メダルは取れそうにないな。
でもやっぱり、ボクにとっては湘南乃風よりも、彼らの歌のほうが合ってるんですね。それは確かに、金メダルのような輝かしい栄光を手にするための曲ではありませんが、なんともしがたい生活の中で、それでもなんとかしようぜと思わせる、地味で弱っちくて全然カッコ良くない人たちのための応援歌なのでしょう。
続けざまに苦しそうな
咳払いをしてた
西新宿の飲み屋の
親父が昨日死んだ
俺の命もそろそろかなって
吸っちゃいけねえ煙草をふかし
日本も今じゃ
クラゲになっちまったと笑ってた
割りと寂しい葬式で
春の光がやたら目を突き刺していた
考えて見りゃあ親父は
良いときに死んだのかも知れねえ
地響きがガンガンと
工事現場に響き渡り
やがて親父の店にも
新しいビルが建つという
銭にならねえ歌を
歌ってた俺に
親父はいつもしわがれ声で
俺を怒鳴ってた
さび付いた包丁を研ぎ
とれたての鯛をさばき
出世払いで良いから
とっとと喰えって言ってた
やるなら今しかねぇ
やるなら今しかねぇ
六十六の親父の口癖は
やるなら今しかねぇ
考えた末、ボク的「応援歌」のナンバーワンは、この歌になりました。長渕剛の『西新宿の親父の唄』。90年にリリースされた『JEEP』というアルバムの収録曲です。倉本聰のドラマ「北の国から’92巣立ち」の中で使用されたので、知っている人も多いかと思います。
長渕氏の曲は、ボク的にスゴくハマる歌と、まったくハマらない歌の差が激しくて、だからこそ面白くてよく聴いているのですが、この歌はスゴく好き。口先だけで「頑張れ！」などと連呼する応援歌ではなく、その人の人柄や、背景にあるものがあって、決して自分に向けられた言葉ではなかったとしても、その人から吐き出される一言に「意味」を見つけてしまう、そういう応援歌です。
金メダルも表彰台も、きっとボクの人生にはあり得ませんが、「やるなら今しかねぇ」という一言に突き動かされる何かが自分の中にある限り、なにかもう少し頑張れるのではないかと思ったりするのです。
