128日目。子供のころに思い描いていた、理想の大人っちゅうのは、家族があり、持ち家があり、もしかしたらビルとかまで持っていて、もちろんお金もたくさんあって、余裕と落ち着きに満ちみちた、ダンディかつセクチーなジェントルマンってなイメージだったワケですが、いざ38歳になった今、我が身を顧みてみると、『♪家族もねえ!お金もねえ!持ち家ねえし、余裕もねえ!』という吉幾三ソング的な男に成り下がっているのでございます。はてさて、なにをどこでどう間違ったのか? いやいや、いまさらそんなことはどうでもいいな。それよりも、今後どう巻き返しを図れるか?が重要。まずは目標の再設定。どんな風になりたいか、誰みたいになりたいか。今のボクにとって年上で憧れちゃう系おっさんは、CKBの横山剣。ああいう色気と老練のバランスが取れた男になりたいな。外国人で言ったら、例えばこのオッサンみたいな。
ルイ・オースティン。1946年生まれのオーストリア人ジャズ・シンガー。今年61歳。70年代には、ニューヨークやピッツバーグ、オーストラリアから南アフリカまで、世界中のホテルのラウンジやクラブを周り、イベントやショーなどで歌ってきたベテラン・シンガーです。ラスベガスのショーでは、サミー・デイヴィス・Jrや、フランク・シナトラなどと同じステージに立ったこともあるのだそう。
まあ、世界中の誰もが知っている有名シンガーにはなれなかったけれど、そこそこ実績も作ったし、世界中旅もできたし、50歳を過ぎて地元ウィーンに戻り、悠々自適に暮らしながら、たまに若いヤツを見つけては「昔、オレはシナトラと一緒に歌ったことがあんだぜ」なんて自慢話をかましつつ、残りの余生を過ごすっていう道もあったはず。つうか、オレだったらそうする。
でもこのルイ爺はそうしなかった。99年、53歳にしてエレクトロニカに路線を変更。「2年やってダメだったら諦めよう」という決意のもと、地元のウィーンのエレクトロニカ・ミュージシャンと組んで、楽曲を制作。00年に発表したシングル「Amore」がヨーロッパのクラブシーンで大ヒットとなり、ラウンジ系コンピレーションシリーズとして名高い「Hotel Costes」にもルイ爺の楽曲が収録され話題になります。その後はコンスタントにエレクトロニカのアルバムを発表し続け、06年にドロップした4枚目のオリジナル・アルバムがこの「Iguana」です。
ルイ爺の魅力はなんと言っても、その声。その少ししゃがれながらも、深くて甘くてインテリジェンスを感じさせる歌声には、30年以上も歌い続けてきた男の年輪が深く刻み込まれています。例えばそれは、ハンフリー・ボガードやケリー・グラントのような、往年のハリウッドスターが持っていた佇まいにも似ていて、カッコつけることのカッコ良さというか、「チョイ悪」とかそんな中途半端なモンじゃなくて、本気で生涯を「PIMP」でい続けることの「艶っぽさ」のようなものを感じるのです。この「Iguana」も、完全にエレクトロニカでありながら、ものすごくハートフルで人間っぽくて、大人の男の色気が匂い立つようなアルバムに仕上がっています。素晴らしいです。
「アートってのは、生死を賭けた行いであるべきなんだ。それ以外はアートとは言わん。ワシは絶対引退はしないし、死ぬ時はステージの上でいいんじゃ。それでいいんじゃ」とは、ルイ爺の言葉。「いいんじゃ」と言ったかどうかは別として、還暦を迎えても尚、守りに入らずに攻め続けるその姿勢と心意気が、ヘタレなボクには刺さります。どこにいようと、何をしようと、その時何歳だろうと、本当はそんなものは関係ないのです。問題は生き方なのじゃ。そうなのじゃ。