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【無人島82日目】寺尾聰 “Re-Cool Reflections”

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Re-Cool Reflections

Re-Cool Reflections

  • アーティスト: 寺尾聰
  • 出版社/メーカー: A&A
  • 発売日: 2006/12/20
  • メディア: CD


82日目。週末、フジテレビの「僕らの音楽」という番組で、椎名林檎と、シアトル・マリナーズのイチローが対談しておりました。ボクはふたりとも大好きなので、興味津々に観ていたのですが、その番組中、イチローが「大事なのは、肉体よりも精神に脂肪をつけないこと。精神的な脂肪は一度つくとなかなか落とせない」てなことを言ってました。う〜ん、やっぱカッケーな、イチローは。ただダラダラと年を重ね、自動的に「年長」になっただけなのに、まるで自分がそんだけのコトをしてきたような錯覚に陥ってしまいがちな、心がすっかりメタボリックなボクには、グサッと刺さる言葉でした。



話は変わって。基本的に、セルフカバーとかセルフリメイクなどと言うものがあまり好きではありません。昔に大ヒットをかました作品を、「最近パッとしないし、あの歌をもう一度自分でリメイクしてみようかしら? ホラ、あの頃よりは経験も積んだワケだし、今の方がいいもの作れるかもじゃない?」などという妄想をベースに作られた代物は、「昔取った杵柄」とか「懐古趣味」などという揶揄が入れられてしまうのは当然。そんなマイナスの評価からスタートし、その評判を覆すのは、新しいモノを作るよりも100倍は難しいはずで、ましてや前作の完成度が高いのならば、なおさらです。

だから、寺尾聰が1981年に大ヒットをかましたアルバム「Reflections」を、全く同じ内容でリメイクしたと聞いたときも、「それってどうよ?」って思ったんです。「Reflections」は大ヒット曲「ルビーの指輪」を収録した、80年代に洋楽邦楽を合わせ日本で最も売れたアルバム。ある意味完成しきった作品だし、今で言うなら宇多田ヒカルが20年後に「First Love」を丸ごとリメイクするようなモンじゃね? そんなモン、聴きてえか?

でもオリジナルの「Reflections」は、当時12歳だったボクが貯金を崩して買った思い出のアルバムで、1曲目の「タバコをくわえて窓を開けたら〜ようやく自分に戻った気がするぜ〜」という歌い出しを聴きながら、鏡の前で目を細めタバコを吸うマネとかしてたんで(←バカ)、やっぱこのアルバムは買わんワケにはいかんのです。

ということで、寺尾聰の19年ぶりのニューアルバム「Re-Cool Reflections」。81年のリリース時、165万枚という爆発的な売り上げを記録したアルバム「Reflections」を、当時のメンバーである井上鑑、今剛、高水健司らを集めて、曲順もそのままに25年ぶりに再録したモノ。

「どうよ?」と思って聴き始めたからでしょうか、想像以上に出来のいいアルバムになってました。なんつーのかな、変わってないんです。アレンジは凝ってるし、演奏も重厚になってるんですが、アルバムそのものの持っているカラーみたいなものが、前作とピッタリ揃えてある感じ。新しいことをしようとか、前作よりも良いものをとか、そういう気合いを持たず、ただ仲間と「あの頃はさー」なんつって語り合いながら、楽しみながら作ってる感じがジンジン伝わってくる作品でした。

自分の昔のヒットアルバムをリメイクするなんてのは、無粋だってことくらい分かってるよ。でも、また売れたいとかヒットさせたいとかそういうことじゃないんだ。昔の仲間と思い出話しながら、もう一度音楽をやってみたかっただけ。いいじゃん、オレ今まで結構頑張って来たんだからさ。もう還暦だしよ、これからは好きなことだけやらせてもらうよ。……って、なんか、そんなことを言われてる気がしました。

寺尾聰は、そもそも宇野重吉の息子という七光りで68年に芸能界入り。石原プロに所属し、「大都会」「西部警察」などで刑事役などをしておりました。34歳の時に、「こんなお経みたいな歌、売れるわけがない」と事務所から揶揄される中リリースした「ルビーの指輪」で空前の大ヒットを記録。一躍スターダムを登り詰めましたが、その後は音楽活動を収束させ、メインを俳優業に戻します。石原プロからも離脱し、80年代後半からは黒澤映画の常連として活躍。いまや「宇野重吉は寺尾聰のお父さん」と言わせるほどの、押しも押されぬ、日本を代表する名優のひとりとなりました。

「親の七光り」にあぐらをかかず、「大ヒット曲連発の売れっ子シンガー」に満足せずに、結果偉大なる父をも凌駕する大きな俳優になった寺尾聰という人は、やっぱり精神に脂肪をつけずに生きてきた人なんだろうなあ、と思うのです。周りからの評価に流されず、自分の中の測りでモノゴトを判断できる人。たぶんイチローが言ってるのもそういうことだろうし、30代も折り返しを過ぎ、心がメタボリック化しつつあるボクには、真剣に考えなくてはいけない課題だなーと思ったりしました。

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