73日目。この週末は、久々にグルグルになるまで飲み、終電を逃し、明け方まで場末のバーで時間をつぶしました。ようやく始発の時間になり、まだ明けきらぬ新宿の街を駅の方までブラブラ歩いていると、通りにはゾンビのような酔っぱらいがウヨウヨと徘徊していて、昼間とはまったく違う様相の街なのです。針のように細い眉のスーツ男。嘘っぽい制服姿の女子高生。汚れていないボロをまとったエセ浮浪者。良く知っている人だと思って話していたら、実はホントはその人じゃなかったと気付いた時のような、なんだか不穏な感覚。そんな時、ヘッドフォンから流れてきて、イヤにバッチリ風景に溶け込んだのは、このアルバムでした。
ブロック・パーティー。2002年に結成されたロンドン出身の4人組。メジャーデビュー前から口コミで人気があがり、レコード会社の間で争奪戦が繰り広げられたほど前評判の高かった彼ら。05年2月に満を持してドロップされたデビューアルバム「Silent Alarm」は、英国でアルバム・チャート3位にランクインされたのを始め、ヨーロッパの各国で大ヒット。日本でも一昨年、昨年と2度来日ライブをやりましたが、どの公演もソールドアウトになる人気ぶりで、3月に行われる3度目の来日では、デビューから2年にしてもうすでに新木場スタジオコーストなどのでかいハコでの公演となっている注目株。
彼らの音楽は、レディオ・ヘッドやコールド・プレイなどの血筋を引きつつも、さらに凶暴的でアグレッシブな感じ。今月リリースされたセカンド「A Weekend In The City」では、プロデューサーに、U2などを手掛けたジャックナイフ・リーを起用し、堅くゴツゴツとした手触りだった前作よりも、さらに研ぎすまされて、ヒンヤリとした印象のアルバムに仕上がっています。ファーストシングルになった「The Prayer」のPVを観ると、言ってる意味が伝わるでしょうか?
ギターのチューニングをわざとずらして演奏したり、楽器ではないものを叩いて録音することによって表現されたこの「不穏感」。例えば、綺麗なホテルのロビーにそっと置かれた、異臭を放つスーツケースのように、普通の生活の中にそっと忍び込んでくる荒廃や犯罪やセックスの匂い。「都市の週末」と題されたこのアルバムでは、そういう「生活音」の中に紛れ込んだ「異物」をテーマにしています。
村上春樹が「アフターダーク」で描いたような、生活の中にそっとある恐怖の世界。当たり前のように普通に隣りにいて、でも正体の分からないもの。ボクが週末の夜、新宿の街で感じて、でもウマく表現できない感覚を、上手に音にしてくれているアルバムです。