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【無人島68日目】宮部みゆき “名もなき毒”

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名もなき毒

名もなき毒

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2006/08
  • メディア: 単行本


68日目。有給くっつけて10連休にしていた正月休みも、ぐびぐび呑んでいるうちに気づいたらあと2日。夜中まで呑んで、昼まで寝て、みたいな生活がすっかり身に付いてしまい、週明けに社会復帰できるか心配です。今だってすでに夜中の4時。なにしとんじゃ、オレは。寝れ! でも眠れない。だって昼まで寝てたから。それにこの本をさっき読み終えたばかりで、とてもじゃないが安眠できそうにありません。



正月休みだし、ちょっと分厚い本でも読もうかと、昨年各書評で絶賛を博していた宮部みゆきの「名もなき毒」を年末から読み始めていました。先ほど読了。やっぱスゲーやこいつは。ウマい。上手いというより、巧いですな。脱帽。

改めて紹介する必要もないでしょうが、宮部みゆき。92年に「本所深川ふしぎ草紙」で吉川英治文学新人賞、93年「火車」で山本周五郎賞、97年「蒲生邸事件」で日本SF大賞、そして98年「理由」で直木賞、さらに02年「模倣犯」で司馬遼太郎賞を受賞という、もう文学賞という文学賞はほぼ総ナメ状態の女流作家。ミステリー、時代劇、SF、ジュブナイルと、一つの分野に捉われないその作風は、その引き出しの多さとストーリー・テリング術の巧みさ、そしてなにより「知性」と「品」を感じさせる文章力が卓越しております。

この「名もなき毒」は、多分もう与えるべき賞がなくなってしまったのでしょう、今のところ無冠ではありますが、週刊文春の「ミステリーベスト10」で第1位、ダ・ヴィンチ誌の「06 BOOK OF THE YEAR」で第3位と、各書評も絶賛しておりました。約500ページの大作ですが、苦もなく読み進められるところが、まずスゴイです。

03年に発表したミステリー「誰か」で主人公を務めた杉村三郎が、この作品でふたたび登場しますが、前作を読んでいなくてもまったく支障のない形で物語は進みます。大手企業で社内報の部署にいる杉村が、新人アルバイトの扱いに苦労する話と、巷で話題になっている連続毒殺事件の被害者の孫と偶然知り合う話とが、微妙な絡みをみせながら、クライマックスへと向かいます。

刑事でも探偵でもない、ただの逆タマに乗った裕福なサラリーマンが、その柔い正義感とお人好しさだけで事件に巻き込まれていくという展開は、いかにもあり得なさそうな話なのに、少しも違和感を感じさせないところもスゴイ。また込み入ったストーリーのラストに、結局「犯罪」とは、誰しもが心のどこかに持っている「毒」を、うまく自分の中で解毒できずに、吐き出してしまった時に起こる理不尽でやるせない「不条理」に他ならないという結論に、青酸カリや土壌汚染という実際の毒物と絡めながら、キレイに落とし込む手腕が圧巻です。


かつてジャングルの闇を跳梁する獣の牙の前に、ちっぽけな人間は無力だった。だがあるとき、その獣が捕らえられ、ライオンという名を与えられたときから、人間はそれを退治する術を編み出した。名付けられたことで、姿なき恐怖には形ができた。形あるものなら、捕らえることも、滅することもできる。私は、我々の内にある毒の名前が知りたい。誰か私に教えてほしい。我々が内包する毒の名前は何というのだ。(本文より)


ボク的にはいままで読んだ彼女の本の中では、「模倣犯」に比肩する作品でした。映画化とかされんだろうな、コレは。杉山はちょっと思いつかんですが、美知香は堀北真希、外立君は加瀬亮でいってほしい。ハマると思うんだが。って、そんなキャスティングはどーでもいい。もう5時。寝れ!オレ。

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