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【無人島36日目】Ryan Adams “Gold”

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Gold

Gold

  • アーティスト: Ryan Adams
  • 出版社/メーカー: Universal
  • 発売日: 2001/09/25
  • メディア: CD


36日目。9月11日。あのニューヨークの悪夢から、今日でちょうど5年が過ぎました。 ボクは5年前アメリカに住んでいて、当時のアメリカの様子を「中」から見ていたのですが、本当にあの時はアメリカ全体がトチ狂ったようでした。テレビは世界貿易センターに飛行機が突っ込むあの映像を、まるで洗脳ビデオようにエンドレスに流し続け、なんら関係のないイスラム系の人々が魔女狩りのように襲われ、グラウンド・ゼロ付近には意味不明な土産物屋が軒を連ねて結構繁盛しているという、もうなにが正しくてなにが不謹慎なのか、全員がまったく分からなくなっている感じでした。きっと戦争はこういう思考の麻痺した状況から始まるんだろうなと、人種的マイノリティであるボクは、じっと息を潜めてなにかに怯えていたのを覚えています。その頃よく耳にしていたのが、このCD。



「9.11」のちょうど2週間後にリリースされた、このライアン・アダムスの「Gold」というアルバムは、期せずしてジャケットには星条旗が使われ、アルバム1曲目に収められたのが「New York, New York」という曲だったため、「9.11」をテーマにしたアルバムのように勘違いされ、当時間違ったカタチで話題を呼んでました。もちろんたまたま発売日が事件と近かっただけで、内容はまったく関係ないのですが。

でも実際に聴いてみると、このアルバムは素晴らしく出来がよく、結局2002年のグラミーでは最優秀男性ロック・ヴォーカルをはじめとする3部門にノミネートされたほど。注目されたきっかけは勘違いでしたが、それによって多くの人の耳に届いた彼の歌は、狙ったワケではなかったはずなのに、思考能力のストップしたアメリカ人の心をギュッと捉え、やさしく癒したのです。特に前述の「New York, New York」のサビの歌詞、「The world won’t wait. Hell, I still love you, New York!(世界は待ってはくれない。やれやれ。まだ愛してるぜ、ニューヨーク。)」という一節には、泣かされたニューヨーカーも多かったのではないでしょうか。

ライアン・アダムス。74年ノース・キャロライナ州生まれのシンガー・ソングライター。98年に「ウィスキータウン」というバンドでメジャーデビューし、カントリー・パンクという珍しいジャンルの音楽を地味にやっていた人です。2000年に出した彼のファースト・ソロ・アルバムを聴いたエルトン・ジョンが、「私の活動においての新たな刺激になった」とコメントを出したり、偏屈で有名なオアシスのノエル・ギャラガーが彼を賛辞する評を書いたりと、なにかと玄人受けするミュージシャンです。もうすでに8枚のソロ・アルバムを出していて、最近ではフジロックの常連になっているので、名前を知っている人も多いかもしれませんね。

やっている音楽はロック、カントリー、フォーク、ブルース、ソウル、ゴスペルあたりをごっちゃに混ぜて吐き出した感じで、アルバムごとにかなり印象が違いますが、基本的に暗くて渋いアコースティックな音。同じくアメリカ人の若手アコースティック・ミュージシャンである、ジョン・メイヤーやジェシー・ハリスと比較されがちですが、それよりも往年のトム・ウェイツとブルース・スプリングスティーンを足して、U2のボノの歌のウマさを付け加えた感じでしょうか。限りなく渋く地味で、そして深く慈悲に満ちた歌声です。

あれから5年が過ぎ、ようやく「9.11」をテーマにした映画が立て続けに公開されたりしていますが、いまだにアメリカ人の傷は深いらしく、こんな趣味の悪いムービーがYOUTUBEで出回っていたりしています。「あのテロはアメリカ政府の陰謀だった!」という説が、実しやかに囁かれているんだとか。んなバカな、と思いますが、良識者たちの間でそういう話が真剣に語られてしまうほど、アメリカ人はまだあの事件から立ち直っていないんですね。そしてなによりも怖いのは、自分では何も考えず、ただその話を鵜呑みにして、石つぶてを他人にぶつけようとする大衆であり、そしてその大衆とは、私たち自身でもあるという事実なんだと思います。

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