
- アーティスト: オムニバス, Bank Band, 中島みゆき, 小谷美紗子Trio+100s, 小谷美紗子Trio, 徳永英明, 坂本昌之, 坂本冬美, 高野寛, 槇原敬之, 小泉今日子 with GOTH-TRAD
- 出版社/メーカー: ヤマハミュージックコミュニケーションズ
- 発売日: 2006/06/14
- メディア: CD
16日目。歌でも本でもなんでもそうなんですけど、受け取り手によって大きく意味が変わってくることってありますよね。同じ曲を聴いても、人によって感じ方が違うのは当たり前だし、だからこそアートって呼ばれているものは価値があるんだと思います。逆に言うと、自分で判断できないとアートに触れる意味がないワケで、例えば周りから「これいいね」とか「これ暗いね」って言われて、「ああいいんだ」「なるほど暗いんだ」って感じ方を促されてしまうのは、違うんでは?と思ったり。でも得てしてそういうことってよくあるんだよな。って、なんの話をしてるのかというと、中島みゆきのトリビュートアルバムの話なんです。
例えば20年くらい前には、中島みゆきの歌って、「ネクラ」とか「女々しい」とか「怖い」とか言われてたんですが、最近あんまり言われないですよね。逆に「勇気がでる」とか「元気になる」みたいな扱われ方をしてたり。彼女の作る音楽自体は昔から一貫しているのにもかかわらず。
彼女の歌が「暗い」とか言われていたのは、例えば「うらみ・ます」とか「化粧」などといった楽曲の、強烈なインパクトのせいだとは思うんですが、それって彼女の曲の中ではかなり例外的な歌であって、昔から「地上の星」みたいな、光の当たらない人々にフォーカスするような楽曲もたくさんありました。例えば、このトリビュートアルバムにも入っている、1979年に発表された「狼になりたい」。これなんか、同じ系列かなと。
夜明け間際の吉野屋では、化粧のはげかけたシティ・ガールとベイビィ・フェイスの狼たち、肘をついて眠る。なんとかしようと思ってたのに、こんな日に限って朝が早い。兄ィ、俺の分はやく作れよ。そいつよりこっちのが先だぜ。買ったばかりのアロハは、どしゃ降り雨でよれよれ。まぁいいさ。この女の化粧も同じようなもんだ。
狼になりたい。狼になりたい。ただ一度。
どしゃぶりの雨が降る夜明け前。吉野家で牛丼を食ってる見ず知らずの連中。みんななにかしらワケありなんだけど、お互いの苦労話なんて聞きたくない。ただみんなが胸の中で「狼になりたい」と思っている。でもなにも言わない。ただ黙って牛丼をむさぼる。そういう時間。
これを「暗い」ととるか、「応援歌」として聴くかは、ホント受け手次第だと思うんですが、発表された当時はこの曲も含め、大きなくくりで彼女の歌は「暗い」ってグループにカテゴライズされてたんですよね。まあ、確かに明るくはねえですが、優しい歌だと思うんですけどね。
で、近年になって「地上の星」やドラマの主題歌になった「銀の龍の背に乗って」のヒットでファン層も広がり、なんの先入観もない、初めて彼女の楽曲を聴いた若い人たちから「中島みゆきの歌は元気がでる」みたいに扱われているのが、なんか面白いなあと。
そんな周りの変化の集大成みたいなトリビュートアルバムが、先月リリースされた「元気ですか」。中島みゆきの楽曲をBank Band、槇原敬之、福山雅治らがカバーしています。小谷美紗子の「狼になりたい」や浜田真理子の「世情」も素晴らしいですが、ボク的には、小泉今日子がカバーした、別れた男の今の恋人に電話をかけるというシチュエーションの朗読詩「元気ですか」に鳥肌がビンビン立ちました。正直オリジナルよりKYON2バージョンの方が怖かった。「何を望んでるの、私?あの人もいつか飽きられることを?」。………やっぱ暗れえわ、中島みゆき。どんなまとめ方やねん。