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【以前の無人島32日目】島本理生「ナラタージュ」

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ナラタージュ (角川文庫)

ナラタージュ (角川文庫)

  • 作者: 島本 理生
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2008/02
  • メディア: 文庫

32日目。昨日から中くんの歌をエンドレスリピートで激しくヘビローしてたら、なんとなく若かりしころにしていた、カルピス系な恋なんぞを思い出してみたり。好きで好きで、苦しくて苦しくて、相手の一言に激しく落ち込んでみたり、逆に異常にハイになってみたりと大忙しだったあの日々。あんなに恋に没頭できたのは、若かったからなんでしょうか?それともヒマだったからなんでしょうか?はたまたバカだったからなんでしょうか?まあまあ、この本でも読んで、あの頃の気持ちを回想してみましょうや。

最近売れまくっている恋愛小説「ナラタージュ」。「この恋愛小説がスゴイ!賞、本年度ナンバーワン」なんだそうです。知らんよ、そんな賞。
主人公は大学2年生の泉。彼女が高校時代に思いを寄せていた教師・葉山先生から、ある日突然電話をもらうところからこの物語はスタートします。お互いに引かれ合いながらも、大人な事情でどうしても成就されない恋。諦めようとして別の人と付き合ってみても、ついつい葉山先生の姿を追ってしまう泉。先生も先生で、自分の抱える問題に彼女を巻き込んではいけないと、彼女と距離を置こうとするのだが、ついつい会うと抱きしめてしまったりするダメ男。ああん、もう!先生ったらっ!ダメダメ、いけませんわっ!って読んでる方が悶絶する小説です。
「ナラタージュ」ってのは、英語の「Narration」と「Montage」の合成語で、簡単に訳すと「回想」。作者の島本理生は1983年生まれの22歳で、数年前芥川賞で話題になった金原ひとみや綿矢りさと同年代なワケですが、若さと勢いを武器にした彼女たちとは違い、島本氏の手法は古風で正統派。泉の「回想」という形で綴られる、「諦念」と「再生」をテーマしたこの小説は、心理と風景を上手にリンクさせるという絶妙な描写で、実に映像的。きっと映画化とかされんだろうな。
正直女の子向きな小説なんで、ものすごい感情移入とかはできませんでしたが、でも心地いい余韻を残してくれる良質な小品です。本の扉に書かれている「きっと子供だったから愛とは違うとかじゃなくて、子供だったから、愛してるってことに気づかなかったんだよ」という一文が、読み終わったあとに深く深く理解できます。問題は若さとかバカさとかではなく、どんな恋をしてそれをどういう風に終わらせたかなんですな。ボクのあのバカバカしくも純粋だった若き日の恋も、ちゃんと手厚く葬ってあげればよかった。ごめんね。今更だけど。チーン。

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